ayasui 切絵展 「にごり水」 取材レポート

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最終話 白紙の部屋

⚫まずは佐藤大陸の好みを語ろう

ワタシはいわゆる探偵小説、推理小説と呼ばれる部類の小説が好きだ。細かく言えば探偵以外の職業の主人公が事件に巻き込まれ、主人公が持つ独自の職業知識や経験を活かし、推理を展開、事件を解決し、結果探偵と呼ばれていく、いわゆる◯◯探偵と冠のつくシリーズものが好きだ。
密室やアリバイトリック、雪山の山荘、変わった間取りの館、身近な人探しや時には犯人と疑われる探偵。様々なエピソードが蓄積されたシリーズのナンバリング後半の作品が特に。

⚫そこは仕掛けもなく白い部屋だった

3つの駅に囲まれた立地となるギャラリー丸美京屋。2016年2月12日。私たちはこのビルへ辿り着いた。 昭和時代のレトロな佇まいを残すビルの2階。ギャラリー入り口の扉を開く。すると、使い込まれた木のぬくもりと、静謐な白い壁面が放つ凜と張り詰めた緊張感が入り交じり流れ出してきた。

そこには、なにもない。
しかし、なにかがあった。

夏休みの学校、人通りのない早朝の交差点、深夜にひとり眺めるオフィスの景色。本来そこに存在する気配の消えた場所。
目には映らない、数々の息吹の気配が漂う充実した空虚さに、ワタシたちはしばし身を任せた。

⚫「なんにもないですね」

ayasuiがつぶやいた声は、シンとした部屋に染み渡るように静かに消えた。いまこの部屋は白紙の状態である。これまで幾多にも渡って行われてきたであろう人々の往来の名残りが充満する空っぽの空間がここにある。

⚫職人は静かに歩き出す

額縁を持って歩き出した彼の動きが合図であったかのように、それぞれが動きはじめる。
2人の横顔には、微かな笑みと満ち溢れた充実感が滲んでいる気がした。これから、この場所にayasuiの世界が生まれようとしている。今から約48時間の間、壁は壁であり壁ではなくなり、紙片の息吹を讃える山となり、床は床であって床ではなくなり、人々をいざなう川のうねりとなるのだろう。

水は流れ、大海へ流れ着き、空へと昇り
やがて再び大地へと降り注ぐ。

繰り返される自然の摂理の中で人々は、
何を想い、考えてきたのだろうか。
明日から始まる「にごり水」の世界で人々は何を想うのか。

小説や映画、様々な作品に対して、続編は駄作が多いと考える人が多くいる。しかしワタシは、回を重ねたシリーズの中で、探偵役の主人公が、過去の事件や人物を回想するシーンが最も好きなのだ。
劇中世界の時間の流れを体感できるからである。

ここまでレポートを読み続けていただいた皆様が、今回の展示で巡らせる想いを夢想しながら、この連載はここで一度留まることとする。

しかし、いずれまた別の機会にお会いしよう。
次回はこの「にごり水レポート」の回想を交えながら。



(文 河内製作所:佐藤 大陸)

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「にごり水」会場のご案内

ギャラリー丸美京屋 〒110-0034
東京都台東区雷門2-10-5
丸美京屋店内2F
TEL:03-3841-9711
URL:http://gallerymarumikyoya.com/