ayasui 切絵展 「にごり水」 取材レポート

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第五回 世界はまとまりを持ちて迫りくる

●幼少期に触れた世界

花札をご覧になったことがあるだろうか。
ワタシは幼少期、花札に魅入られたことがある。
トランプとも違う(起源は一緒のものではあるが)不思議な絵柄に惹かれたことを覚えている。幼い自分の手にもすっぽりと収まる小さな紙片には、極彩色に彩られた、四季折々の花々。
花札という名称に神妙に納得し、月ごとの花を覚えた記憶がある。

●ayasuiの更新

幼少の記憶に想いを馳せた理由。それは、ayasuiのSNSがきっかけであった。
実はこの『事前レポート』は掲載のたびに、ayasuiが告知を行ってくれているため、多くの人の目に触れる機会をいただいた。
そういったいきさつもあり、彼女がSNSを更新した際にはこまめにチェックを行っている。
その日も更新告知をたどり、最新の書き込みを目にした。
彼女の書き込みには写真が添えられており、その写真は今回の展示で用意したポストカード(詳細は前回レポートの参照を願う)を撮影したものであった。

●おおぅ。と漏れた。ため息が。

ポストカードの並んだ姿にである。

『色とりどり』

写真の中に並んだポストカード達の姿を形容するために、しばし考えを巡らせたが結局はこの言葉に辿り着いた。

●細部は見えない。しかし充分なのだ

9枚のカードを撮影した写真であるため、各図柄までをつぶさに見取ることは難しい。
しかし、圧倒的な力で迫ってくるのだ。
凝縮された色の固まりとでもいえばよいだろうか、選ばれたモチーフたちの堂々たる姿が飛び込んできた。
ワタシはその全景に対し、立ちすくむような想いで対峙する。同時に、今回の展示準備期間に一度だけ彼女の作品を目にしたときのことを思い出す。

●切絵の空気

下地の紙と切り抜かれたモチーフとの間にある浮遊感。
絵画とは違う、空間であり、彫刻とも異なる平面の立体感。
ひとつの枠の中にそれぞれ存在するひとつの別世界。
ワタシはその世界観に強く惹かれこのレポートを書き始めたのである。
作品自身に触れることをせず、ここまで来た。
最後まで約束は守ろうと思っている。
しかし、作家自身が作品の紹介をしていたのである。ワタシからひとつだけ作品に対する感想を述べておこう。

「目の当たりにする作品、ひとつひとつには途方もない
力強い引力が存在している」と。

花札は歴史の中の時代で制定された賭博を取り締まる「法」から逃れるために生まれた歴史を持っている。
しかし、その中にある美意識には感服するものがある。
和歌になぞらえ、四季の花々をあしらった図柄。
小さな紙片に封じ込められた雄大な世界観。
目を見張るほどの極彩色。
その姿には日本人の美意識が色濃く反映され、日本の風情が凝縮されていると思うのだ。

ワタシは、ayasuiが生み出す作品に、
その姿を重ねているのかもしれない。



(文 河内製作所:佐藤 大陸)

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「にごり水」会場のご案内

ギャラリー丸美京屋 〒110-0034
東京都台東区雷門2-10-5
丸美京屋店内2F
TEL:03-3841-9711
URL:http://gallerymarumikyoya.com/