ayasui 切絵展 「にごり水」 取材レポート

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第四回 木材の行方

●福神漬けの起源とは

唐突な質問で恐縮だが、あなたは福神漬けの由来をご存知だろうか。 その名称の由来には諸説あることをお断りしたうえで、ワタシが気に入っている一説をご紹介したいと思う。
重ねて断りを申し上げると、この説は創作であるとされるのが一般的である。

その昔、ある商人が、お盆のお供えがすみ、川へ流されていく野菜たちを拾い上げ漬物として売出した。
後にこれが、神様へのお供え物から作った漬物であることから『福神漬け』と呼ばれるようになったという説である。
創作とされる説ではあるが、非常に興味深いネーミングの由来であると思う。

●置かれていた木材

前回のレポート「舞台『袖』の話」についての取材で、ワタシは額縁を作る職人の元を訪ねた。詳細は前回レポートの参照を願うが、ワタシは彼との問答に困惑し、彼の部屋をあてどなく見渡した。
その時に、目についた木材の破片、いわゆる端材たちが今回のレポートの主役である。

●2015年12月某日

時は再び昨年までさかのぼる。
ayasuiが迷いの中から新たな境地を見いだした報告メールを受け取ったのとちょうど同じ頃。
額縁を制作する彼からも、ひとつの連絡を受け取っていた。
彼とはよく電話でやり取りをする。その日電話があり、応答すると彼は開口一番にいった。
「端材になった木材を使い道を決めたんですよ」と。
彼は訥々と続ける。
「額縁用に木材を切断すると、どうしても使えない木材がでるんです。この木材で写真立て作れないかなと考えています」

---ほう。なかなかじゃないか---

額縁を作り上げた彼が出した次の制作物は、ポストカードを立てるスタンドであった。
少し販促めいたことを述べるが、今回会場ではayasuiの切絵を使用したポストカードを用意する予定である。 購入者専用の待受画像ダウンロードもできる、にごり水特製のポストカードだ。
彼は、額縁の端材を利用し、このカード用にスタンドを組み立てる計画を話してくれた。
細長く切られた木片に一本のスリットを入れ、カードを立てることができる。作品展示の額縁とは異なる仕上げであるが、磨き上げた木材のカードスタンドを作りたいと彼は語った。

---率直にいって欲しいと思った---

実はワタシ自身も数多くポストカードを自宅にディスプレイしている。毎回頭を悩ませるのは、どのようにディスプレイするかである。せっかくの作品を直接鋲で止めてしまうのはいささか心惜しい(その方法で味がでるものならばそれが最良であるが)。
それならばとフレームを探す。が、なかなか雰囲気に合うものがない。仕方がないなと、机上の本に立てかけてみても紙片があるだけでは心もとない。
そういった理由から作品の雰囲気を損なわず、機能的に使用できるカードスタンドのアイディアには諸手を挙げて賛成を表明した。

●2016年1月某日

ポストカードの提案を受けてからも、何度か彼と電話で話をした。その度に、聞こえてくるのは、おそらく木を削る紙ヤスリが擦れる音である。
何を仕上げているのかは聞いても答えてくれないが、ワタシはもしかしたらポストカードスタンドの制作なのではないかと密かに期待をしながら音を聞いている。
端材に対しても丁寧な作業で接する、職人の木材に対する敬意を感じられるからなのかもしれないし、そんな職人が作業する音を聴き分けられたら名誉だと思うからかもしれない。

福神漬けのネーミングに興味を引かれた理由は、本来ならば破棄される物たちの経緯をも踏まえ、新たなる息吹が吹込まれている発想力に感服したからなのである。
現代の「リサイクル」の考え方を否定する意図は無いが、物たちの歩んできた道のりも含め名称を生み出す再利用の仕方と、ネーミングセンスに艶のある小粋な魅力を感じてしまうのだ。



(文 河内製作所:佐藤 大陸)

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「にごり水」会場のご案内

ギャラリー丸美京屋 〒110-0034
東京都台東区雷門2-10-5
丸美京屋店内2F
TEL:03-3841-9711
URL:http://gallerymarumikyoya.com/