ayasui 切絵展 「にごり水」 取材レポート

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第二回 続「ayasui」のつぶやき

⚫不思議の国のayasui

ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」は、小さな少女アリスの幼き好奇心からはじまる冒険譚である。
ウサギを追いかけ、ウサギの穴に落ちたアリスはそこでしゃべるウサギやトランプの兵隊など、様々な不思議と出会う。
にごり水の事前レポートのため取材に訪れたayasuiのアトリエ。制作途中になった花々に対して、方向転換があるのか質問した際に「いやー、実は迷子になっちゃいました」と語る彼女の話を聞くうちにワタシが思い出したのはその「不思議の国のアリス」であった。

⚫そもそもなぜ花のモチーフを手掛けたのか

前回の繰り返しとなるが、ayasuiがこれまで作品に登場させてきた モチーフは蛾や蜥蜴など比較的ダークな印象を与えるものが多い。
今回のにごり水展Webサイトの冒頭にもある通り「ただ綺麗なものには 興味がない」と語る彼女だ。単純に花を制作するのにはきっと格段の意図があるはずである。
(誤解のないように念のため述べておくが、花というモチーフが表現としてチープであり貶められるものであるという意図では断じてない。 むしろ美しいものの代表であり、普遍的なモチーフになるであろう。だからこそダークな作家の作品において異色に映るのである)
ワタシはayasuiの真意に迫るべく質問を重ねた。

ー花に取り組んだきっかけはなんですか?ー

彼女はしばし手を止め、空中を見上げ考える素振りを見せた。
しばしの沈黙、一抹の不安、彼女の思考。
数秒の間に種々の空気が密度を増した気がしたが、やがて彼女は話始めた。
「花は綺麗すぎて、怖さがなかったからいままで手を出しませんでした。でも、それだけで避ける理由になるのか考えた時、ただの食わず嫌いかもしれないと思いました。未知の領域に挑んでもいいのかもしれないなと」
迷走していることをカミングアウトした時よりも数段はっきりとした視線と口調で語ったのである。
ワタシはいつものayasuiらしいコメントに安堵した。10年目の節目に開かれる展示に向けてのayasuiの挑戦であると感じたからだ。今は迷子であると自ら語る彼女であるが、必ずなにかの出口を見つけるのだろうと。
まだ話をしようとしているayasuiではあったが、制作の邪魔にならぬようその日はそこでアトリエを後にした。

⚫2015年師走 某日 ayasuiからの連絡

年の瀬も迫ったある日、短い文章と一枚の画像が添えられた電子メールを受け取った。差出人はayasuiである。画像は先日のモチーフたちが用いられた作品の写真であった。
レポートを届ける際にお約束した通り、作品詳細についての記述は避けるが、ワタシが得た感想は、ayasuiが出した答えなのだなということである。少しだけayasuiのコメントを紹介しよう。
「だんだんと形になる花を見ていると楽しくなりました。でもやっぱり、自分の色が出てきて最終的にはこうなりました」

随分と控えめなコメントだと思う。

そこには、新たな方向性とこれまでの集大成が交じり合った、ayasuiらしさと新たな一面の融合した世界があったからだ。

不思議の国への旅を終えたアリスは姉の膝の上で目を覚ます。
冒険の一部始終を姉に話し終え、走り出すアリス。走り出したアリスの姿をみつめ未来へ想いを馳せる姉。
ワタシは、新たな境地に飛び込み、新たな世界を切り開いたayasuiにその姿を重ねずにはいられなかった。



(文 河内製作所:佐藤 大陸)

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「にごり水」会場のご案内

ギャラリー丸美京屋 〒110-0034
東京都台東区雷門2-10-5
丸美京屋店内2F
TEL:03-3841-9711
URL:http://gallerymarumikyoya.com/